THE VOICE|special interview:「映画にかける思い」映画業界に関わる著名人の方々に、さまざまな角度やテーマで映画にまつわるお話をしていただきます。/VOICE08 石井克人(映画監督・アニメーション監督・CMディレクター)

子どもに向けて作った映画なので、ショッピングモールがあるイオンシネマはいいですね。

―本作は、映画を“まず撮り始める”という大胆な企画だったそうですね。映画監督を目指す若い人であればともかく、石井監督が音頭をとって進めていることが衝撃でした(笑)。

ハロー!純一 ©2012 Nice Rainbow/Ishii Katsuhito

いや、いろいろと理由はありますが(笑)、なんでもいいので子どもが観る作品を撮りたいという想いがまずありました。
何をモチーフに撮るかは決まっていたわけではなく、漠然とした思いだけがあったわけですね。ただ、子役を使う場合、スケジュールや予算的な限度で20日くらいしか余裕がない。時間的な制約もあるので徹夜も無理で、尺的に2時間分しかないだろうと。
それで映画しかないだろうということでスタートしましたが、もともとドラマを想定していた事情もあって、タダで見せようと思っていたモノでお金をとることはヘンだろうという話になって。それでゼロ円興行ということにもなった感じですかね。

―また、作風の変化にも注目ですよね。米ドラマ「がんばれ!ベアーズ」みたいな作品を目指したそうですが、これまでのフィルモグラフィーと比較すると、イメージにはなくて。

以前『スマグラー おまえの未来を運べ』('10)を撮った時に、上から「子どもからおじいさんまでが観られる映画じゃない」ということを言われ(笑)。
なるほど、自分には撮れないのかなと気になりました。その時には石井には作れないと思われていたわけで、早く撮ってみたいと思いましたね(笑)。
だから今回、「自分にもできるぞ!」って、思って撮りました(笑)。

―本作はイオンエンターテイメントが配給協力をいたしておりますが、製作会見によると、あの鈴木敏夫プロデューサーが応援してくれて、シネコンでの大規模公開に至ったそうで。

そうですね。すでに映画を製作中にゼロ円興行の話題をしていましたが、でもノウハウがないから現実味がなかったわけですね。
最初は単館上映の予定だったのでゼロ円興行に近いことは可能かなと思っていましたが、映画のプロデューサーの意見を一度、聴こうという話になりました。そこで日本一のプロデューサーは鈴木さんだろうということで(笑)、ご紹介いただいた経緯があります。
その時にいくつかのアイデアをいただいて、現在の形になりました。
ティ・ジョイが主導で動いていただいて、当時はワーナー・マイカル・シネマズでしたが、イオンシネマでのシネコン上映が実現しました。すごい館数規模での公開なので驚いていますが(笑)、うれしいです。ちょうど今日もお礼を言ったところです(笑)。

―イオンシネマは家族で楽しめるショッピングモールと併設しているので、『ハロー!純一』のような子どもたちが主人公の映画、ゼロ円興行映画は特に親和性が高いと思います。

そうですね。特に子どもに向けて作っている映画なので、ショッピングモールがあるイオンシネマはいいですね。子どもが行きやすい映画館が一番いいと思っていたので感謝です。

子どもがワンサカいることで映画館の温度感が上がる

―本作でゼロ円興行を実施した結果、どういう効果が子どもたちに起こると思いますか?

「石井克人(映画監督・アニメーション監督・CMディレクター)」

『ハロー!純一』はタダなので、いろいろな子どもたちが一緒に観るじゃないですか。これが重要で、たとえばゲームや学習塾の場合、経済的に余裕がない子は話題に入れないですよね。教室か何かで盛り上がっていても、会話の輪に入れない。
でも、タダの映画は誰かが観ようよって言って、親でも先生でも誰でも連れて行けるので、話題に乗れないことはない。誰もが話題に参加できるので、たとえばクラスの中での話題の一個になれば面白いかなって。
映画館に行けば想い出として残ると思うので、一生忘れないじゃないですか。

―なるほど。また、子どもをテーマにした場合、シネコンに対する要望などはありますか?

僕は映画館が盛り上がればいいなあと思いますね。それこそ『ハロー!純一』はタダなので、子どもがワイワイ来て「うるさい!」みたいな感じになれば理想的だなって(笑)。
それって昔の映画館みたいな雑多な感じで、「どうした? 今日は子どもがいっぱいいるな?」って状況、ちょっと面白くないですか?子どもがワンサカいることで映画館の温度感が上がるというか、そういうことって最近のシネコンでは未経験に近そうな気がして。

―そのシネコンに求める“雑多”感は、鈴木プロデューサーも以前言われていたことです。

雑多感とは違いますが、それこそ今日の鈴木さんとの会話で現在のシネコンへの要望は出ていましたね。自分と同じ年齢の人はシステムが複雑なので、映画館へ入れなくて困っていると(笑)。暇があるので2本観ようと思っているのに、観る気が失せて帰ってしまうと。

僕だってシネコンの受付でスッと立ち回れない時があります(笑)ガイドさんが何人かいるといいですよね

―通いやすいシネコンを目指すことは、いまの子どもたちにとっても意味がありますよね。

たぶんですが、子どもの時に映画館へ行かないと、一生行かない気がしますね。今の映画館は思った以上にシステマチックになっていて、ある年齢に達すると、それこそ敬遠しますよね。わからん!とか言って(笑)。それって子どもも一緒だなと思っていて、遠目に観ている状況はよくない。
そのハードルを下げておけば、やがてバイトができる年齢になった時に、映画館で映画を抵抗なく観ることができる気がします。
そういう意味では損して得とるじゃないですが、ゼロ円興行はアリだと思っていて、1回知らせるということですね。映画館は面白いぞということが共有の想い出として残れば、やがてデートでも使うだろうと(笑)。

―裏を返せば、シネコンの魅力を説かないままだと、未来の観客への危機感もありますか?

「石井克人(映画監督・アニメーション監督・CMディレクター)」

ああ、ありますね。それはめちゃくちゃありますね(笑)。
単純に映画監督なので人が入らないことは嫌なことですが、入りにくい状況があるような気がして。
僕の少年時代を回想してみると、積極的に映画館へ行ける経済環境ではなかったわけですよ。
友だちが親と映画館に行くって時に、こっそりついて行ったくらい。その時の特別な感覚は、今でも忘れないです。
だから、映画館に行くことって、すごく大事(笑)。本当にそう思いますね。

―インタビューは最後になりますが、お客さん目線でリクエストは何かあるでしょうか?

その昔、JRが切符からカードに変わった時に、案内する係みたいな方がいましたよね。しかも、1人や2人じゃないレベルで。そういうガイドさんが何人かいるといいですよね。
めちゃくちゃ助かると思うし、「よくわからん!」という人が多いと思うので、正直、僕だってシネコンの受付でスッと立ち回れない時があります。何言っていると言われそうですが(笑)。

Profile

【VOICE08】石井克人 映画監督・アニメーション監督・CMディレクター 1966年12月31日生まれ。新潟県出身。武蔵野美術大学卒業。CMディレクターとして活躍後、初監督作である劇場映画『鮫肌男と桃尻女』(’99)が社会現象になるほど話題に。本文中以外の代表作に、『PARTY7』(’00)、『茶の味』(’04)、『山のあなた 徳市の恋』(’08)などがある。
©2012 Nice Rainbow /Ishii Katsuhito/取材・構成・撮影/鴇田 崇(OFFICE NIAGARA)

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