THE VOICE|special interview:「映画にかける思い」映画業界に関わる著名人の方々に、さまざまな角度やテーマで映画にまつわるお話をしていただきます。/VOICE19 監督 FROGMAN

第一印象はウソでしょ? ですよね(笑)

― 「イオンシネマ」は現在活躍中の著名な映画人に毎回、映画にかける思いなどをうかがっています。今回の『天才バカヴォン ~蘇るフランダースの犬~』は異色コラボが実現していると言っていいわけですが、日本を代表するアニメーションだけに衝撃的な展開です。

『天才バカヴォン ~蘇るフランダースの犬~』

第一印象はウソでしょ? ですよね(笑)。ただ、「天才バカボン」は確かに偉大なるコンテンツで誰もが愛している作品ではあるものの、現代とマッチしない要素が多分にあるという懸念がありました。たとえば、「妖怪ウォッチ」。主人公が子どもで、かわいいキャラクターが出てきて、映画だけじゃなくて、ゲームにもなって、というライツのほうに広がっていくビジネスになり得るコンテンツですよね。そこへいくと「天才バカボン」は昭和のアニメーションなので、ビジネスとしての広がりが薄い。正直、面白いモノを作る自信はあるにしても、ビジネス的には疑問符。となると、これは映画で勝負するしかないなと。

― 本来的な興行である映画で勝負するために、「フランダースの犬」にヘルプを求めたと?

そうです。そこで考え抜いた末の結論が、「フランダースの犬」でした。僕が提案しました(笑)。ハリウッド映画では、よくありますよね? たとえば、エイリアンと何かが対決するような作品が。それに、そもそもテレビ版のラストが、子ども心に納得いってなかった。だから、ネロとパトラッシュがラストで天国に召されるけれども、実は人間に対する憎しみから地獄に落ちてしまい、人類を滅ぼそうと平成の世によみがえってしまう。それをバカボン一家が阻止するというアイデア。これで関係各所のOKが出てスタートしたわけです。

― なるほど。ある意味では、「フランダースの犬」の後日談的な意味合いも濃いわけですね。

正当な続編ではないけれども、あの哀しすぎるラストシーンは納得いってなくて(笑)。ハッピーエンドじゃない上に、ネロとパトラッシュは村人たちが良く思っていることを知らずに死ぬじゃないですか。僕の中には彼らの魂が解放されて天国に召されるべきだという想いがずっとあって、これはやるべきだと。それと、これくらい斜めに攻めるネタを持ってこないと、赤塚先生がご存命なら「普通なのだ」と言われると思いました。メチャクチャ破天荒な方だった思うので、許してもらえるほどのアイデアで対抗する必要がありました。だから、愛情としては同等。ただふざけているわけじゃなくて、リスペクトを込めて。

子どもたちの想い出になるよう、「イオンシネマ」さんには素敵な劇場を目指してほしい

『天才バカヴォン ~蘇るフランダースの犬~』

― さて、「イオンシネマ」は日本最大のスクリーン数を誇るシネコンで、独自のイベントなども劇場内で積極的に行ってはいますが、映画人として、現在何か想うことはありますか?

実はシネコンが登場した頃は、なんてこんなチャラついた劇場で、みたいなことは思いましたよ(笑)。やっぱり僕らの世代は単館系の映画館の勢いがすごかった時代で、シネマライズのこけら落としで、『ドラッグストア・カウボーイ』(89)を高校時代に観に行ったほどなので。シネセゾンなどもです。そういうことを良しとする青春時代を過ごしたので、受け入れがたいものがあったわけです(笑)。でも最近、ちょっと古めの映画館で映画を観た時に、イスはガタガタだし、前の人の頭で観にくいし、トイレは汚い――全然ダメなんですよ(笑)。だから、いかに今のシネコンが快適かということを思い知らされちゃいまして。

― 昨今のシネコンはただ映画を観るだけでなく、快適な環境も整えて充実していますよね。

小さい頃、板橋で生まれ育って、板橋東映という映画館がありました。そこが大好きでよく通っていて、映画が始まる前にモナカを買う。席まで売りに来るわけですよ。それを親が買ってくれることがたまにあって、それが楽しみでしかたがなかった。映画館と家で映画を観る決定的な違いって、そういうスペシャルな空間かどうか。誰かと一緒に同じスクリーンを観るとか、そういう時間さえなくなってきているので、そこがポイントですよね。

FROGMAN監督

― 子どものうちに、そういう体験をすることは重要ですよね。映画館が想い出になります。

だから、今の子どもたちにとってもキラキラした想い出になるよう、快適で素敵な劇場を目指して「イオンシネマ」さんには頑張ってほしいです。アイスを売るでもいいと思いますが、スペシャルな仕かけが理想。いつまでも映画を愛してくれると思います。素晴らしい作品を提供するのが僕たちの使命なら、すばらしい環境で映画を提供することがシネコンの使命かもしれない。今でも十分だと思いますが(笑)、もっとあってもいいと思いますよね。

― たとえばシネコンの中に昔の二番館的なレイアウトのシアターがあっても楽しいですね。

だから夏には縁日みたいな催事があってもいいと思いますし、子どもたちにはプレゼントをあげるとか。何でもいいと思います。キラキラした想い出とともに子どもたちの体験に刷り込めればいいですよね。それが映画界の未来へとつながっていくことでもありますし。

大規模なイベントもできちゃうシネコンには、個人的に想い入れがあります

FROGMAN監督

― 新作の公開時に、舞台あいさつだけじゃなく、映画館と連動したイベントをしたことは?

やったことはありますよ。「鷹の爪」でもやりましたが、ある劇場がオープンする際に全館借り切ったことがあります。僕の作品を13スクリーン全部でかけて、スクリーンごとに観て回るイベントをしました。そういうことが無理なく実施できちゃうシネコンには、個人的に想い入れがあります。何より、わくわくしますよね。ただ、僕らはわくわくしますが、もっと若い世代はわくわくしないかもしれないので、子どものうちにわくわくする体験をたくさんしたほうがいいかもしれない。僕の場合、その体験がモナカだったりしたので(笑)。

― 最後の質問になりますが、映画人として今後の映画界、そして映画館に期待することは?

難しいですが、映画界は貫録や威厳を一番持っているエンターテインメントの頂点であり続けなくてはいけない、と個人的には思っています。娯楽の頂点ですね。最近は映像制作の裾野が広がって、僕は恩恵を受けた一人ではありますが、その一方で、映画業界で育った人間としては、映像の文法や映像の持っている意義などを尊重しています。その中でいくつか想うことがあるなかで、たとえば本当に素晴らしい演技とは? というものが映画の中にあることを知ってほしい。それが、映画館にあることを知ってほしい。プロの仕事ですよね。昨今はネットの映像がテレビに流れるとか簡単に映像がバンバン流れる時代ですが、本当のプロの職人が作る映像の醍醐味を味わってもらうために、そういう映像を作り続けないといけない。そうじゃないと、我々はゆくゆく、自分たちの首をしめることに他ならない。それを、これだけゆる~いモノを作っている僕が言うのも、ナンですがね(笑)。

Profile


							FRGOMAN CGクリエイター、アニメーション監督、声優:映像作家。「秘密結社 鷹の爪」シリーズ作者。ひとつの作品の監督・脚本・キャラクターデザイン・編集・声の出演を一人でこなす独自のスタイルでトップクリエイターとしての地位を確立した。また、有名作品をコメディアニメにリメイクすることも多く、過去に「週刊シマコー」や「ルパンしゃんしぇい」、「攻殻機動隊ARISE」、「ベルサイユのばら」などを手掛けている。現在はテレビ、WEB、ラジオにて「秘密結社 鷹の爪」シリーズの新作を毎週放送・公開している。
取材・構成・撮影/鴇田 崇(OFFICE NIAGARA)

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