THE VOICE|special interview:「映画にかける思い」映画業界に関わる著名人の方々に、さまざまな角度やテーマで映画にまつわるお話をしていただきます。/VOICE20 監督 三池崇史

『極道大戦争』を新しい映画館でもかけるみたいですが、無謀だなって思います(笑)。

― 今回、三池崇史“原点回帰”とうたっていますが、確かにハチャメチャ感は受けますね。

『極道大戦争』

そうですね。原点回帰というか、ちょっと戻りすぎたくらいですね。こういうカンジ、しばらく撮っていなかった。楽しいモノ、無責任なモノ、あってもなくてもどっちでもいいようなモノです。最近はオリジナルビデオというジャンルがほぼなくなってしまったなか、中学生・高校生が間違って劇場に入ってくれたら(笑)。「あ、こういう映画もありか」って思ってくれたらうれしい。映画を観て、「何でもありかも」って感じる機会も減ったので。

― 原作がない分、撮影など自由ですよね。過度に自由だと反対に大変ではなかったですか?

いや、全然大変じゃないですよ。自由です(笑)。たとえばテレビの月9で「あえて『極道大戦争』やりますか!」になると視聴率的な責任が発生しそうですが、これは映画で、興行的にマイナスになるかもしれない」という思い切った感覚かもしれない(笑)。いまは単館も少なくなってきて、シネコン時代の中では、なかなか作られない絶滅危惧種的な作品ではないかと。そこを狙ったわけじゃないけれど、偶然そうなりました。

― また、今回は助監督時代に長い時間を過ごした日活撮影所の想いも投影していますか?

それは、ちょっとありますね。個人的には日活撮影所で長い時間を過ごしましたので、最後に、そこを舞台に撮ったことは個人的に感慨深いものはありますが、それは作品にはまったく反映されていないですけど(笑)。それはともかく、日活の動向に注目したほうがいいと思いますよ。そうとう変わっている会社だと思うので(笑)。『極道大戦争』を新しくオープンする映画館でもかけるみたいですが、自分からしても無謀だなって思います(笑)。

シネコンがアトラクション化していくことも、ひとつの道

『極道大戦争』

― さて、「イオンシネマ」は日本最大のスクリーン数を誇るシネコンで、独自のイベントなども劇場内で積極的に行ってはいますが、利用者として、現在何か思うことはありますか?

観客としては、非常にありがたい話です。シネコン登場によって単館系がなくなるとかは、近くに大きなスーパーマーケットができて商店街が成り立たないという、成り立たない側の事情ですよね。なおかつデジタル化で映写機に投資ができなくなって、名画座と言われるものが減る。これは、過渡期の現状で、これからいろいろな流れになると思うので、ライブ・ビューイングとかね。映画の人は批判しますが、映画ファンにはありだと思います。

― シネコンが豊富なサービス提供することで、映画本来の楽しみ方も充実すると思います。

劇場の幕間の使い方もそうとう変わったと思います。そういうことは負ではなく、プラスの要素と考えて、作る側も含めてやっていける可能性広がった。何かを失った感じは、僕はしていないです。作り手としても、いい条件下で観ていただけるので、うれしい話です。以前のVシネマではドルビーを使わず、なんちゃってステレオでやったこともあった(笑)。音の良し悪しが映画の良し悪しじゃないですが、良いに越したことはないわけですからね。

三池崇史監督

― 「イオンシネマ」の場合、ショッピングモールと一体化している点も喜ばれてはいます。

観る人に便利だと思いますよ。特にイオン系のシネコンの場合、駐車場があって、衣食住に密接に関わっている映画館じゃないですか。時間の使い方のひとつとして、選択肢が多い。ただ、今のようなシネコンになってなかったら、何か掟破りなことをやってほしかったなとは思います(笑)。1個の劇場でやっていることを全国に発信できることで、エンタメのありようも変化する。アトラクション化していくことも、ひとつの道ではありますね。

「イオンシネマ」にも、ほっとする場所であり続けてほしい

三池崇史監督

― シネコンは仕事でも行かれますよね。初日舞台あいさつなどのキャンペーンのことです。

僕らはキャンペーンで土地土地の映画館へうかがいますが、やっぱりほっとするわけです。お客さんにたくさん来てほしい願いは、僕らよりも当然強いわけですよね。だから、そういう人たちと一緒にいることは、勇気づけられる。どこに行ってもポップコーンのにおいがわーっとする。そもそも楽屋や控室がない世界なので、僕らは裏導線を通って舞台に出ていくけれど、その導線を通っていきなり表舞台。そのギャップが意外と好きですかね(笑)。

― ほっとする場所はうれしいご意見です! そういう場所を心がけようと改めて思います。

地方キャンペーンでシネコンを回ることって、すごいスケジュールなので正直、ヘロヘロになりますが、作品についての寄せ書きなどを見るとね(笑)。映画館は僕らが最後に届ける場所で、戦場じゃないけれども最後に届ける場所っていうことで、キャンペーンの中でも重要です。裏の廊下に椅子が置いてあるだけの場所でも、どこかほっとする場所ですよ。だから、キャンペーン関係なく「イオンシネマ」もそうあり続けてほしいと思いますよね。

― また『極道大戦争』の話題に戻りますが、何ものにも縛られない自由を得た今回の三池監督の下で、キャストの熱気や情熱も違いましたか? 皆さんそうとう弾けています(笑)。

いや、そういう意味では特段変わらないと思います。多少テンションは高かったかもしれないけれど、いつも精一杯で、楽しい。ただ皆、それぞれの事情がある中で、自発的に興味を持ってくれたはずで、映画の中で生きることが日常になってしまっている人たちに、もう一度リセットの意味を込めて非日常的な空間を味わってもらうというか、向こうも求めていた。仕事があればあるほど、今様な人気者像を要求されて、不自由な時代ですから。

― なかなか作ろうと思っても作れない『極道大戦争』は、ある意味、奇跡的な作品ですね。

そもそも、この手のモノはなかなか思いつかないですからね(笑)。また作ろうといっても機会もないだろうし、無理に作るモノでもない。今回だって、スケジュールがぽっと空いたってことも大きい。無理矢理、奇をてらって作ったら、どうしてもバレちゃう。ちゃんとした映画撮ろうとして、こうなっちゃったみたいなことが大事で(笑)。本物の過程を踏まないとダメですね。またタイミングは来ると思うので、そういう時にまた撮れればと(笑)。

Profile


							三池崇史 映画監督:1960年8月24日、大阪府八尾市出身。横浜放送映画専門学院卒業後、今村昌平監督、恩地日出夫監督に師事。1991年『突風!ミニパト隊』で監督デビュー。1995年『新宿黒社会チャイナ・マフィア戦争』が、劇場公開映画の初監督作となる。以来、ジャンルを問わず多種様々な作品を監督し、圧倒的な質と量で日本を代表する監督に。海外でも熱狂的に支持され、ヴェネチア国際映画祭に『十三人の刺客』(10)が、カンヌ国際映画祭に『一命』(11)と『藁の楯 わらのたて』(13)が、ローマ国際映画祭に『悪の教典』(12)と『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』(14)、『神さまの言うとおり』(14)が、それぞれコンペティション部門に出品された。今年2月には、市川海老蔵と中村獅童が主演の六本木歌舞伎「地球投五郎宇宙荒事」の演出に挑戦し、更なる活動の幅を広げる。
取材・構成・撮影/鴇田 崇(OFFICE NIAGARA)

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