THE VOICE|special interview:「映画にかける思い」映画業界に関わる著名人の方々に、さまざまな角度やテーマで映画にまつわるお話をしていただきます。/VOICE35 映画監督 大友啓史

日常で突然襲いかかってくる恐怖を映像として表現したかった

ミュージアム

― 今回の『ミュージアム』、とても衝撃的でしたが、どういう想いで映像化を試みましたか?

最近、日本で嫌な事件がたくさん起きていますよね。ネットなど象徴的ですが、姿が見えない悪意――突然見知らぬ悪意が自分に降りかかってくるような感覚って、おそらく例の大震災以来の日本人のリアリティーだとまず思ったんですよね。そういう顔の見えない、突然襲いかかってくる恐怖というものが、この原作の中にはしっかりと描かれている。それを映像として表現できたらと思いましたね。

― 小栗旬さん演じる主人公・沢村久志刑事を襲うカエル男の恐怖は、今の日本の“悪意”だと思いました。

動機が見えない犯罪が増えてきていますよね。神への復讐みたいなことを想起する『セブン』(95)とは違い、カエル男の場合は動機なき劇場型殺人みたいなもの。それはフィクションだけでなく、リアリズムを帯び出している感覚があると思う。だから僕らが今の時代に生きていることの実感も踏まえて作っていけば、自分なりの必然性も出ると思いました。

― 確かに映画の中だけで終始するファンタジーではなくリアルに通じる恐怖を覚えました。

モデルとした具体的な映画や事件はないんです。先日行ったシッチェス・カタロニア国際映画祭でも『セブン』や『ソウ』シリーズを思い出したという質問をする記者さんがいましたが(笑)。シェイクスピアによると、物語って結局36種類しかないっていう説もありますよね。物語の表層部分は時代や場所や地域によって、当然変わってくる。けれど構造を目新しくしようとすると小手先になるので、そこは一番気をつけていたことですね。

作り手としては満席がいいはずなのに、空いている映画館を探してしまいます(笑)

ミュージアム

― ところで普段、「イオンシネマ」のようなシネコンで映画を観る時間などはありますか?

そうですね。けっこう観る機会は多いほうだと思います。自宅の近所だったり、仕事帰りとかに行っていますね。そして、なるべく空いている時間を狙って観ています。だから、映画が公開して、けっこう時間が経ってから観ることが多いかな。どうも少し静かな環境で観たいようで(笑)。座席はセンターよりも右端。どうやら、そこが落ち着くみたいです(笑)。

― ちなみにですが、幼少期と言いますか、映画館で初めて観た映画って、覚えていますか?

最初は、東映マンガ祭りか『ゴジラ』シリーズだったと思います。昔の盛岡(※監督の出身地)は豪雪だったので、親父がソリに兄と自分を乗っけて、映画館へ連れて行ってくれました。今は、盛岡市内は全然積もらないみたいですが、昔はミニスキーを履いて通学していたほど。その当時は単純に娯楽として観ていましたが、映画にハマッた時期は中・高校生くらいですかね。

― 現在の大友監督の作品が素晴らしいルーツは、中・高時代の映画体験にあるわけですね。

高校時代は、盛岡で浴びるように映画を観ていましたね。盛岡の映画館ってそんなに混んでませんでしたから。学生時代の僕が好んでみるような映画は特にね。あ、だから、そういう映画館が好きなんでしょうかね(笑)。その時の空気感も覚えていますが、本来作り手としては満席がいいはずなのに、空いている映画館を探してしまいます。映画はゆったりと観たい。本当は自分の家にマイシアターを持っている状態が、一番いいのかもしれませんね(笑)。

この映画も表層的ではなく、深い作品になるだろうという気がしています

大友啓史

― 今回のカエル男ですが、演じる妻夫木聡さんの狂気的な熱演も話題になりそうですよね。

妻夫木君が楽しんで演じていることが一番大きいと思います。カエル男は倫理的に問題があるキャラクターなので、真面目に受け止めすぎてしまうと深みにハマってしまい、悪い意味で迷いが出ちゃう可能性があったんです。掘り下げすぎて殺人や(遺体を)作品にする意味などを考え出すと行き止まりになるので、無責任ですが「楽しみなさい」という話はしました。

― それこそカエル男は、自分のことを「アーティストだ」って言っているわけですからね。

そうなんですよね。「カエル男は、アーティストなんだから」という話もしました。そもそも悪役が魅力的だと、映画って格段に面白くなるって真理があるじゃないですか。だから、このカエル男を魅力的に描いて、ひとりひとりの心の奥底に訴えかけていけば、この『ミュージアム』という映画も表層的ではなく、深い作品になるだろうという気がしています。

― 最後になりますが、映画『ミュージアム』を待っている映画ファンに一言お願いします。

表面的なバイオレンスなどに注目がいきがちですが、誰もが胸に手を当てれば心当たりがあるようなドラマ性もあるので、サラリーマンのお父さん方などにも響くようなメッセージもあると思います。それこそシネコンの広い劇場で観ることで、映画『ミュージアム』が投げるメッセージを全身で受け止めていただければと思います。ご期待ください。

Profile

大友啓史 映画監督 1966年生まれ、岩手県出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。90年NHK入局、秋田放送局を経て、97年から2年間L.A.に留学、ハリウッドにて脚本や映像演出について学ぶ。帰国後、NHK連続テレビ小説「ちゅらさん」シリーズ(01)、「ハゲタカ」(07)、「白洲次郎」(09)、大河ドラマ「龍馬伝」(10)等の演出、映画『ハゲタカ』(09)の監督を務める。11年にNHKを退局、株式会社大友啓史事務所を設立。『るろうに剣心』(12)、『プラチナデータ』(13)などのヒット作を手がける。映画『るろうに剣心京都大火編/伝説の最後編』(14)を2作連続公開、14年度の実写邦画NO.1ヒットを記録。ファンタジア国際映画祭観客賞、日刊スポーツ映画大賞石原裕次郎賞、毎日映画コンクールTSUTAYAファン賞、日本アカデミー賞話題賞など、国内外の賞を受賞し、世界的にその名を知らしめる。最新作は『秘密 THE TOP SECRET』(16)、『3月のライオン』2部作(17)など。(映画公式サイトより)
取材・構成・撮影/鴇田 崇(OFFICE NIAGARA)

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