THE VOICE|special interview:「映画にかける思い」映画業界に関わる著名人の方々に、さまざまな角度やテーマで映画にまつわるお話をしていただきます。/VOICE53 映画監督 沖田修一

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山﨑努さんと樹木希林さん。 お2人がそこに居るだけで絵になるんです。

モリのいる場所

―“山﨑努さんの熊谷守一が観たい”というところから、「モリのいる場所」は出発したそうですね。

はい、『キツツキと雨』に出演してくださった山﨑さんとまた仕事がしたい、 山﨑さんのあこがれの人だという守一さんを演じてもらいたいと、完全な当て書きでした。熊谷守一さんは実在した画家ですが、 堅苦しい伝記映画でもドキュメンタリーにもしたくない。だから守一さんの一日をどんな風に作ろうかなと、 これまでのフィクションと同じ感覚で書きました。舞台は守一さんの家と庭だけなので、 庭がまるで“小宇宙”であるように描きたかったんです。

―山﨑さんと樹木希林さの醸しだす“長年連れ添った夫婦感”が最高でした。

何も言うことがないくらい、お2人がそこに居るだけで絵になるので。2人とも脚本をすごく気に入ってくださって、 その面白さを掬い取り、現場で作ってくださいました。樹木さんは色々なことを考えられていて、 現場で“こうしたらもっと面白くなる”と一緒に作っていく感じでした。 山﨑さんも“そうすると台本のこの面白さがなくなるけど、いいかな”と、すごく相談に乗ってくださいました

モリのいる場所

―例えばどんな樹木さんからの提案を、作品に生かされましたか?

僕は、観ているうちに何となく分かればいいと、夫婦が子供を亡くされたことを脚本に書きませんでした。 守一さんの“生きものが好き”なことに理由を持たせたくなくて。 でも、樹木さんが「うちの子たちは死んじゃった」というセリフを入れたい、とおっしゃって。 入れてみたら変に意味も持たず、むしろいいセリフで(笑)。他にも、焚火が好きな守一さんのために、 前日のゴミをとっておくだけで素敵だと思ったのですが、モニターで見ていたら、 樹木さんが燃えやすいように紙クズをクシャっとする演技をされていて。僕には思いつきもしませんでした。

一日の話に、守一さんの様々なエピソードを盛り込んでいます。

沖田修一

―一方、モリが汁を飛ばしてウィンナーを食べるなど、思わず噴き出すシーンも満載でした。

そういうエピソードは、取材や資料で見聞きしたものを基に、台本に落とし込んでいきました。 加瀬亮さんが演じたカメラマンのモデルとなった藤森武さんにお聞きしたところ、守一さんは歯がなくて、 本当にキャンバスの鋏で潰して食べていた、と(笑)。そこから、きっと家族は当たり前のように汁をかわして食事を続けただろう、 と想像しながら作りました。文化勲章を辞退するシーンも、本当に袴を履きたくないから、 とおっしゃったそうで(笑)。困った役人が家まで来たそうですよ。 映画は、ある一日の物語ですが、そこを超えて、昭和天皇が展覧会でモリの絵を見て「何歳の子供が書いたんですか?」 と質問されたという逸話も入れました。

―カレーうどんを食べるシーンで、守一さんだけがうまく食べられない姿も最高でした。

僕もあそこは面白くて、ずっと撮っていたかったシーンです(笑)。守一さんは、お昼にうどんかパンを食べたそうなんです。 それをベースに、僕がたまたま京都でカレーうどん屋さんに入った時のことを入れました。 店に入ると、僕以外全員外国人で、誰も上手く食えていなくて。箸も使えないのにカレーうどんに挑戦し、熱いし、滑るし(笑)。 既に食べることすら諦めている欧米人もいて、可笑しくて可笑しくて(笑)。それを笑いながら台本に書いた覚えがあります。

―終盤では、三上博史さんが意外な人物だと分かりますね。

役名としては“知らない男”ですが、実はある使命を帯びた変な人でして…。 “モリは家と庭以上のものは必要ない、本当に満ち足りているのだ”とクライマックスでもう少し強調するためには、 変な人に登場してもらうしかない、と(笑)。最初は半ば冗談のつもりでしたが、 意外に山﨑さんが気に入ってくださって。真剣に考えて作ることになったシーンです。

Profile

1977年生まれ。愛知県生まれ、埼玉県出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。2002年、短編『鍋と友達』(02)が第7回水戸短編映像祭にてグランプリを受賞。2006年に『このすばらしきせかい』で長編を初監督。2009年、『南極料理人』のヒットで脚光を集め、2012年に公開された『キツツキと雨』は、東京国際映画祭審査員特別賞受賞、ドバイ国際映画祭では3冠に輝いている。ほかの作品に『横道世之介』(13)、『滝を見に行く』(14)、『モヒカン故郷に帰る』(16)。国内のみならず海外でも高く評価されている、日本映画界の俊英。
撮影=YOONCHONGSOO 取材・文=折田千鶴子
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