THE VOICE|映画監督 中村義洋

SPECIAL INTERVIEW

映画にかける思い

映画業界に関わる著名人の方々に、様々な角度やテーマで映画にまつわるお話をまとめました。

中村 義洋映画監督

『見える子ちゃん』映像化、中村監督が一番楽しみだったこと

見える子ちゃん

――今回の『見える子ちゃん』ですが、映像化にあたって監督ご自身が一番楽しみにされていたことは何でしたか?

一番最初に思ったことは、主人公の顔、原菜乃華さんの表情だったと思います。それが何だ? という人もいるかもしれないですが、僕の中では「霊が出るけど、無視してやり過ごすだけ」という、ただそれだけのことを90分なり100分なりで飽きずに観せることができたら、相当面白い映画になるんじゃないかって。それこそが一番やってみたかったことでした。

見える子ちゃん

――実際、完成した作品は監督の狙いどおりに仕上がったのではないでしょうか。

次第に感動作になっていくのは、自分でもちょっと驚いています(笑)。脚本も自分で書いていて、キャラクターの背景も作っているので、やっぱり感情移入しちゃうんですよ。泣かせようと思っているわけではないんですが、撮影して繋いでみたら自分で泣いてしまったりして。そういう意味では、少し感情移入しすぎた部分もあったかもしれませんが(笑)。


――脚本化の作業で一番大切にされたことは何ですか?

端的に言えば「プレッシャー」です。主人公は17歳の高校2年生で、霊を無視していれば大丈夫かもしれないけど、かなりの圧だし、プレッシャーになると思うんです。その子が最終的に「叫んでいい」と解放されていく。そこに向かう流れの中で、プレッシャーや葛藤を丁寧に描きたいと思いました。脚本を直している時間が長く、2年か3年くらいかけて、直し続けていました。時間をかけたことでいい方向に行けたことは、むしろ珍しいことかもしれませんが、それがよかったんだと思います。

若手キャストたちの素晴らしい演技に感動!

見える子ちゃん

――原菜乃華さん、久間田琳加さん、なえなのさん、若手キャストのみなさんのお芝居がかなり印象的でした。

本当にすごいですよね。本当によかったです。みなさん最初は人見知りで、本読みのときなんかは全然大人しかったんですが、気づかないうちにすごく仲良くなっていたんですよ。だから、そういう意味での苦労はまったくなかったです。


――原さんの演技について、監督から見た印象を教えてください。

すごくよかったです。ラストの長いセリフのシーンでは、共演のキャストが「すごい……」と見入ってしまうくらいでしたし。引き出しの多さはもちろんですが、それを全部見せるわけではなく、状況に応じて必要なものだけを出してくれる。原さん演じる四谷みこは全部受けの芝居なのですが、準備の加減も完全にわかっているので、安心して任せられました。

見える子ちゃん

――二暮堂ユリア役のなえなのさんはいかがでしたか?

会った瞬間に「これは面白い子だ!」と確信しました。彼女なりにお芝居をしようとしてくれたのですが、自然な会話の中に面白さがあるので、そのままでいてくれたほうがいいと伝えました。一見すると砕けた印象がありますが、実はすごく真面目! あの指の使い方とか、細かい部分もしっかり練習してきてくれて、本当に根性があるなと思いました。


――百合川ハナ役の久間田琳加さんについてはいかがでしたか?

もしかしたら今回、久間田さんが一番いろいろなことをしなきゃいけなかったんじゃないかな。泣いたり、叫んだり、取り憑かれたり……。でもすべてを全力でやってくれて、演出の意図をしっかりくんでくれました。ありがたいなと思いました。本当に3人とも素晴らしかったです。

映画を映画館で観てほしい理由とは

見える子ちゃん

──『見える子ちゃん』はイオンシネマでも上映されますが、監督が考える“映画館で映画を観る醍醐味”について改めて教えてください。

そうですね。僕の作品は基本的にスクリーンで観てもらうことを前提に作っているので、配信などで小さな画面で観られてしまうと、すごくもったいないなと思っています。

映画館で観るからこそ気づけるもの、聞こえる音、迫ってくるようなサウンドがあり、そういったものをすべて劇場仕様で作っているんです。だからやっぱり映画は映画館で観るべきでしょうと、当たり前かもしれませんが、ちゃんとそこを目指して作っているつもりです。


──監督ご自身も、映画館に行かれますか?

行きます。でも、ちょっと変わった楽しみ方かもしれません。僕はだいたい空いてる時間帯を狙って行くんです。平日やサービスデーを外した日とか、自分の作品の場合は土日に行きます。お客さんの反応を見たいので。

見える子ちゃん

──ご自身の作品を観ているお客さんの反応を観たときは、どういう気持ちになりますか?

気持ちいいです(笑)。特にホラーとコメディは、それが一番大きい。笑いが起きる場面って、音入れや編集のときから「笑い待ち」みたいな間を意識してるんです。笑ってくれてる間に次のセリフがかぶらないようにしたり、音楽の音量を下げたりとか。ある種の“親切設計”ですよね。

あと、僕自身が映画館で観たときに、ちゃんとお客さんの笑い声が聞きたいというのもあります。特に海外の映画祭に行くようになってから、そういう意識は強くなりました。海外のお客さんってすごく能動的で、「笑おう」とか「泣こう」と思って観に来ているから、反応がドカンとくる。そこで「あ、ここ間をもっと開けるべきだったな」と気づかされることもあります。

今回一番の挑戦は「霊のあり方」

見える子ちゃん

――『見える子ちゃん』、監督にとって一番の挑戦は何でしたか?

やっぱり「霊のあり方」ですよね。これまで自分が関わってきた霊って、ほんの一瞬だけ映るようなものが多かったんです。でも今回はずっと画面に映り続ける。その場合、どんな見せ方をすればいいのか……というのは大きな課題でした。

脚本は時間をかけてしっかり作れたんですが、着物霊の表現がグダグダだったら、全然面白くならないわけですよね。それが本当に怖くて、スタッフを集めて早めにテスト撮影も行いました。CGや照明、メイクとの兼ね合いなど、細部まで詰める必要があったので、準備には3〜4年かかっています。なので粘りました。自分では納得しています!

見える子ちゃん

──では最後にみなさんにメッセージをいただけますか?

本当に宣伝って難しいんですよ。怖いと言うと「怖そうだから観ない」って人もいれば、怖くないと言うと「そんなに怖くなさそうだから行かなくていいや」ってホラーファンが来ないことになって。そのさじ加減がすごく難しい。

でも、とにかく面白い映画ですし、ユニークですし、今まで観たことがないタイプの映画になっていると思います。なので、とにかく観てほしい。それに尽きます。

原さんの驚く顔、予告編でも流れていますが、あれを観てもわかる通り、最初の入口と、観終わって出てくるときの出口が全然違う映画になってると思います。なので、だいぶ遠くに連れて行かれると思います。ぜひその体験をしてほしいですね。

PROFILEプロフィール

原 菜乃華

中村 義洋映画監督

中村 義洋映画監督

BIOGRAPHY

1970年生まれ、茨城県出身。1999年に劇場映画監督デビュー。『仄暗い水の底から』 (02)、『クイール』 (04) など話題作の脚本を手掛けたのち、2007年に『アヒルと鴨のコインロッカー』で新人賞・金賞を受賞。主な作品に『チーム・バチスタの栄光』 (08)、『フィッシュストーリー』 (09)、『ゴールデンスランバ一』(10)、『映画 怪物くん』(11)、『白ゆき姫殺人事件』(14)、『予告犯』(15)、『残穢 -住んではいけない部屋-』(16)、『殿、利息でござる!』 (16)、『忍びの国』(17)、『決算!忠臣蔵』(19) など数々のヒット作がある。また、初期の構成・演出を担当した「ほんとにあった!呪いのビデオ」では、シリーズを通して現在もナレーターを務めている。

取材・構成/鴇田 崇

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