THE VOICE|映画監督・演出家・脚本家 行定勲

SPECIAL INTERVIEW

映画にかける思い

映画業界に関わる著名人の方々に、様々な角度やテーマで映画にまつわるお話をまとめました。

行定 勲映画監督・演出家・脚本家

「楓」はスピッツの代表作でもあるのでプレッシャーも感じました

楓

――本作はスピッツの名曲「楓(かえで)」を原案にした映画となりますが、最初に企画を聞いた時はいかがでしたか?

この企画はコロナ禍前からあり、僕は途中から参加しましたが、お話をいただいた時は光栄に思うと同時に、「楓」はスピッツの代表作でもあるのでプレッシャーも感じました。多くの人たちがさまざまな想いを抱えながら聴いているであろう名曲なので、映画にすることで物語を絞ってしまうようなことにもなるわけです。

楓

ただ、逆に考えると分母があまりにも大きいので、僕らもその中のひとつであるのではないかという思いに至りました。このプロジェクトに集まった人たちが限りなく「楓」を語り、スピッツを語ることで、物語の中に何を盛り込めるのか、どういうテーマで着地させられるのかということを話し合えるくらい、「楓」という曲には奥深いものがあるなと感じました。

楓

――人々に寄り添うような歌詞・メロディーが愛されている名曲かと思いますが、映画化にあたり「楓」の印象・解釈に何か変化はありましたか?

そうですね。ただ、人々に寄り添うだけではない、一筋縄ではいかない曲だと思うようになりました。「楓」という楽曲は、僕ももちろん大好きな曲ではありましたが、ある種、多面的な部分もあって、生と死の境界線に立って作っているような曲に聴こえました。どこまで魂が浄化されていくのかという曲にも聴こえますし、残された人間がどのようにその魂を見送っているのか、という世界観にも感じました。

楓

なので、そういう物語になればいいなと思いました。もともとシナリオにもあった天体の光は、僕の解釈としてもなるほどと。天体の光が届くまでの時間と、人間の生きている時間を対比すると、瞬きぐらいの時間しか人間は生きていないわけです。ほんの一瞬しか生きていないことになります。

そのなかで恋愛をするということはものすごく至近距離で、喜んだり、苦悩したり、言葉にできないような多彩な感情があるわけです。そして、壮大な宇宙の中に自分たちがいる。これらを僕は「楓」という曲から感じられている。そういうものが抽出されて、このオリジナルの物語ができあがっているとしたら面白いなと思い、挑戦させてもらいました。

恋愛映画が好きだなと思うのは、人と人との距離感

楓

──監督作『世界の中心で、愛をさけぶ』公開から約20年、再生や再び歩き出す物語を撮られることについてご自身としても感慨深いと言われていましたが、どのような想いで撮影に臨まれましたか?

昔と今のラブストーリーは、違うということは感じています。僕が監督した『世界の中心で、愛をさけぶ』もそうですが、20年前は死別する人への想いをひたむきに抱き続け、前に進めなくなった人をめぐる話でしたが、今回は僕が年齢を重ねて大人になっているからか、ただ純粋なだけでなく、そこには葛藤などもあるだろうと。昔はそれこそ『世界の中心で、愛をさけぶ』というくらいなので、確かにそれがすべてだったりするけれど、今は映画を観ていても登場人物がどうあるべきかということを感じるんです。

楓

どうそこに存在して、その後何を選択していくのか。自分の人生の一部分を、どこかでどう乗り越えていくのか、その点に(人々は)興味があるのかもしれないと思うんです。自分自身もそういう風に感じているのかもしれません。すべてをつなぎとめるのではなく、どこかで手放さなければいけない選択を、どこかでしなければいけないという。そんなことをずっと考えていると、(僕が描く)登場人物もそういう選択をしていくなということは感じています。自分の感じ方ですよね。同じような題材だとしても、感じ方が変わったように思います。

楓

――恋愛映画の魅力とは、改めてどういうところにあるでしょうか?

今回は『世界の中心で、愛をさけぶ』パターンとは違うけれども、久しぶりの人を想うところに特化した恋愛劇です。恋愛映画が好きだなと思うのは、人と人との距離感ですね。たとえばとても近い人にストレートに言葉を全てありのままに話してしまうと、もしかしたら壊れてしまう想いがあるかもしれない、というのがラブストーリーだと僕は思います。だからそうした選択をしたくないために、みんな抑圧しますよね。それは今回の作品で言うと「遠慮」という言葉になりますが、本当は言えばいい話なんですよね。でもそれは上手くいかないかもしれないという想像がそこに働く。そういうことがもっとも人間らしいなと僕は思う。ラブストーリーはこういう要素が描けるから一番人間的だなと思うんです。

久しぶりに恋愛映画を撮ったなと自分でも感じています

楓

――最後になりますが、映画を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いいたします。

久しぶりに恋愛映画を撮ったなと自分でも感じています。人が人を愛することの息苦しさみたいなものや、切なさみたいなものが盛り込まれた映画になっています。スピッツの言葉からたくさんインスパイアされて、それが解き放たれた時にもっと広い世界が広がっているような、そういう気持ちになれる映画になっていると思いますので、ぜひ劇場で観ていただけるとうれしいなと思っております。

PROFILEプロフィール

行定 勲

行定 勲映画監督・演出家・脚本家

行定 勲映画監督・演出家・脚本家

BIOGRAPHY

1968年8月3日生まれ、熊本県出身。
助監督として岩井俊二監督、林海象監督や若松孝二監督などの作品に参加。1997年に「OPEN HOUSE」で長編映画デビュー。長編第2作「ひまわり」(00)で釜山国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。2002年「GO」(01)で、第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、脚光を浴びる。2004年「世界の中心で、愛をさけぶ」が、興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象に。2010年「パレード」で、第60回ベルリン国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞。2018年「リバーズ・エッジ」でも、第68回ベルリン国際映画祭にて同賞を受賞。その他にも、「北の零年」(05)、「今度は愛妻家」(09)、「真夜中の五分前」(14)、「ナラタージュ」(17)、「窮鼠はチーズの夢を見る」(20)、「リボルバー・リリー」(23)等を手掛ける。情感あふれる耽美な映像と、重層的な人間模様が織り成す行定監督作品は、国内外で高く評価され、観客の心を揺さぶり続けている。また、韓国ドラマをはじめて演出した「完璧な家族」(25)がLeminoで独占配信中。

取材・構成・撮影/鴇田 崇

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