
映画業界に関わる著名人の方々に、様々な角度やテーマで映画にまつわるお話をまとめました。
染谷 将太俳優
最初に吉田(光希)監督が長編の新作を撮られるとお聞きしまして、その主演を、ということでお話をいただきました。吉田監督とは面識がありましたし、監督作品も大好きだったこともあり、いつかご一緒できたら…と思っていたので、本当にうれしかったです。あと、最近ではめずらしく製本された状態の準備稿をいただいて、そこに熱意も感じました。
そのいただいた準備稿を見まして、<廃用身>という題材は、自分なりに覚悟が要る作品だなとまず思いました。とても倫理観を問われる作品であり、映画で描くことの倫理観も問われると思ったので、正直なところ不安はあったのですが、もとより素晴らしい原作ですし、吉田監督と一緒にこの作品に挑めるので、自分としてもチャレンジになると思いました。
演じた漆原先生の根本には善意があると思っていて、人のために自分は医療に突き進んでいきたいという彼のベースを大事にしたいと思いました。猟奇性がある、ちょっとサイコパスじみているみたいなことではなくて、本当に社会のために自分は尽くしたいという気持ちは、絶対にブレないように演じたいなと思いました。
漆原先生は、過去のことが報道で出てきた時、本人としてもそこの記憶があいまいというか、そうやって突きつけられると、自分が正しいと思って突き進んできたことが、本当は正しくなかった可能性もあるのかもしれないと、改めて自分を咀嚼しだして揺らぎだすのですが、そういう風に崩れてくと台本にも描かれていたんです。だから、実はシンプルと言いますか、自分の中で完璧だと思っていたこと、必ず“Aケア”を社会に普及できると思っていたものが崩れそうになることって、ひとりの医師としてよっぽどのことだと思ったんです。なので、起きることを素直に受け止めて素直に崩れれば、漆原先生をちゃんと演じられると思いました。



自分としてはいつも、まず基本的には(芝居の)反省から入ってしまうのですが(苦笑)、吉田監督の切り口が鋭いなと思いました。この映画に出て来る登場人物と観ているお客さんの距離感が、とてもキレッキレだなと。たとえばカット割りもオーセンティックなものではなく、気づくとズームして人物の寄りになっていたり、なんとも不穏な切り取り方なんですよね。漆原という人間がいい人なのか悪い人なのか、あいまいに見えて来る切り取り方が、映画表現として本当に素敵だなと思いました。ある種の同調圧力みたいなものも施設という世界の中で感じさせてくれる描き方をされていて、絶妙な表現だなと。面白いなと思いました。
そうですね。この映画を観ていただく方の、たとえばその時の家庭の状況であったり、年代であったり、置かれた環境などで、ものすごく受け止め方が変わってくると思うんです。普通に映画として面白がれる方もいるかもしれないし、そうじゃない人もいるかもしれない。観ていただければ、いろいろな感想を持っていただけるのではないかなと思っています。僕は20年、30年後に見返した時にも、とても意味のある作品になったなと思いました。

BIOGRAPHY
1992年9月3日生まれ、東京都出身。9歳の時に『STACY』(01)で映画初出演。2009年、『パンドラの匣』で長編映画初主演を務め、2011年、『ヒミズ』で第68回ヴェネツィア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人俳優賞)を受賞。以来、幅広い役柄をこなす変幻自在な演技力で、圧倒的な存在感を放つ実力派俳優として鮮烈な印象を残す。昨年のNHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」の好演も記憶に新しい。