THE VOICE|special interview:「映画にかける思い」映画業界に関わる著名人の方々に、さまざまな角度やテーマで映画にまつわるお話をしていただきます。/VOICE75 俳優 松重豊

この映画を通して、みんなが悩みを共有して話し合えるきっかけになってくれたらいい

ヒキタさん! ご懐妊ですよ

―「ヒキタさん! ご懐妊ですよ」(10/4公開)は、“男の妊活”を描いた画期的な作品です。オファーを受けられたとき、予備知識はどの程度おありだったのでしょうか?

ほぼ知りませんでした。本作に携わることで、こんなにも多くの方々が不妊に悩み、妊活をされているということを初めて知り、非常に驚きました。僕の周囲にいなかったというより、妊活をされている多くの方々は、誰も共感してくれないだろうと人に言わない方が多いそうで。だから逆にこの映画を通して、みんなで悩みを共有したり、話し合えるきっかけになってくれたらいいな、と思いました。

―撮影前に、何か準備はされましたか?

実際に病院に行き、妊活で通われている方たちとお話をしたり、病院や治療の現場の空気などを体感したりしました。こういう部屋で採精するのか、こんなものが置いてあるのか、治療する部屋はどうなっているのかなどを知って。その後は撮影を通して、実際にヒキタさんご本人が経験されたことを、勉強しながら追体験していった感じです。

―原作エッセイを書かれたヒキタクニオさんご本人とは、お会いされましたか?

「凶気の桜」「鳶がクルリと」など、なかなかマッチョな作品を書かれている方ですが、ご本人もなかなかにマッチョな方で(笑)。そんな方が、こういうエッセイを書かれたことが、なんだか“可愛らしいぞ”と思いました。映画で、その“可愛らしい”部分を増幅させたら面白いかな、と頭をよぎりました。撮影中に慰問に来られた際、現場で北川景子さんが自分の嫁さん役をやっていることを意識されてか、“うちの嫁も可愛いんだ”とさかんに熱弁を振るわれていて、愛すべき作家先生でしたよ(笑)。

「こんな若くて可愛くてデキる嫁さんをもらえるなんて(笑)。“たられば”で楽しみました。

ヒキタさん! ご懐妊ですよ

―北川景子さんが妻役という設定に関してはいかがでしたか?

かつてドラマで上司と部下役をやらせていただいて、まさか恋愛がらみ、ましてや夫婦の関係性など考えられませんでしたが、今回、こんな若くて可愛くてデキる嫁さんをもらえるなんて、何て幸せな50代なんだ、と思いました。僕は嫁と同年代なので、こういう人生もあったかな、とニンマリしつつ、“たられば”で飲み込んで楽しんでます。北川さんがサチという女性を、女性の強さと儚さを全身にみなぎらせて演じて下さって、この嫁のためなら、と困難な妊活に立ち向かえたのだとリアルに思えました。

―簡単にはいかないのが“妊活”ですが、気丈に振舞うサチが崩れるシーンが印象的です。

サチが桜の木の下で泣いているシーンは、男としては抱きしめることしか出来なくて、本当に印象に残っています。華奢な体で泣き崩れる彼女は、満開の桜にも負けない美しさで、誰もが抱きしめてしまう絶妙な空気感を出されていました。わざわざ長野の諏訪まで撮りに行ったかいがあるシーンになりました。

―濱田岳さん演じる編集者との相棒関係が、いい笑いとアクセントになっていました。

上司と部下、先生と生徒の関係など、何度もこれまで共演してきましたが、今回、初めて心を通わせる役で。本当に上手いし、さじ加減も分かっていて、“そこ、どうやりたい?”と大人同士の駆け引きもできるので、今回もすごく助けられました。いい相棒、いい味方が現場にいてくれた感じでした。

Profile

松重豊 ヒキタクニオ役 1963年生まれ、福岡県出身。TVドラマ「孤独のグルメ」シリーズほか、多くの映画、舞台に出演。近年の主な作品に、映画「検察側の罪人」(18)、大河ドラマ「いだてん~東京オリンピック噺~」(19、NHK)、ドラマ「悪党~加害者追跡調査」(19)など。来年公開待機作として「糸」「グッドバイ」などがある。エフエム横浜「深夜の音楽食堂」でラジオパーソナリティも務めている。
撮影=野崎航正 取材・文=折田千鶴子 スタイリング=増井芳江 ヘアメイク=YUUKA SAEKI

イベント&サービス案内トップに戻る


  • 前のページに戻る
  • ページの先頭に戻る