
映画業界に関わる著名人の方々に、様々な角度やテーマで映画にまつわるお話をまとめました。
城定 秀夫監督・脚本
曽根圭介さんの小説を原作に韓国で最初に映画化されているのですが、そのリメイクということではなく、日本の原作でもう一度日本映画としてやりましょうというスタートでした。東映で初めて映画を撮るうれしさと同時に、この企画の難しさも感じました。なので、まずは面白くするための作戦を立てなくちゃいけないと思いましたね。楽しさ半分、難しさ半分という複雑な感じでした。
そういう経緯もあり、原作から離れましょうと原作者サイドからのリクエストがありました。僕としても同じモノを作っても仕方がないと思い、設定から変えることにしました。原作が持つ面白さの軸はそのままに、キャラクターなどを変更しました。主人公・佐藤寛治の設定を、中年男性から大学生に変えたり、おばあちゃんを足したり、韓国版とはテイストが違うものになっていると思います。
そうですね。ただ、題材はわりと現代ですが、街並みなどは無国籍な感じにできたのかなと思います。劇中に登場するヤクザもファンタジーな存在だったり、ちょっとレトロテイストな世界観だけれど、描かれているテーマは現代的になっていると思います。
エンタメに振り切ろうという想いはありましたが、かといって喜劇的な話ではあるけれども、そういう人たちがお客さんを笑わせるタイプの映画にしたくはなかったんです。俳優の皆さんには、自分たちが置かれている“藁にもすがる”状況を本気で演じてもらいました。なので、お客さんが安全地帯の映画館から彼らが追いつめられている姿を見ると滑稽で可笑しいみたいな、そういう映画になればいいかなと思いました。自分はこうなりたくないな、自分だったらどうするかなみたいな、そういうことを見て感じてもらいたかったですね。
寛治はドジだけど心優しい青年ということで、会ってお話をして、役作りというよりは鈴鹿さんのそのままの感じで居ていただけるのがいいかなという印象を受けました。そういう意味でナチュラルに演じてもらいましたし、ナチュラルに演じることがとても上手い俳優さんだなと思いました。
僕はパソコンなどで映画を観ることはなく、ほとんど映画館に行って映画を観ています。自転車で深夜までやっている映画館に行って、寝る前に一本観て、というような生活です。家では集中して観られないんですよ。こだわりは、なるべく遅い時間で、人が少ない時間帯に観ることです。あとは、だいたい前のほうに座る。最前列で観ることも少なくないです。
せっかく映画館に来ているのだから、映画の世界に没入したいというか、視界いっぱいか、ちょっと視界からはみ出るくらいな感じが好きなんです。今年は『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』、『シラート』、『木挽町のあだ討ち』あたりがよかったですかね。
映画の仕事は、工程が先に行けば行くほど楽しくなっていきます。どんどん出来上がってくると、気持ちも上がってくる。原作も何にもないゼロの時、最初は不安なんです。シナリオを作る時もめちゃくちゃ苦しい。やがてキャストが入り、現場も最初は不安ですけど、撮影が進めば楽しくなってくるもの。その後、編集して仕上げて組み立てて、音楽が付いて、「あ、出来た」となる(笑)。僕は、後ろに行けば行くほど楽しくなってきますね。
あとは、共同作業なので、最後までどんなものができるかわからないところですかね。実写はアニメと違い、流動的な部分も大きいので、ちょっとしたことで本当に変わっていったりします。僕はこれまで低予算で、現場でコロコロ変わるものばかり作ってきたけれど、今回のようなこれだけの大作でも基本は同じというか。人間が作るものなので、読めないところが面白い。
この先AIの世の中になり、どう変わっていくのかはちょっと怖いですけど。もう監督も俳優も要らないのかもしれない。ただ、その上で人間が作るものがなぜ面白いのか。それがこれからのテーマじゃないでしょうか。
なるべく柔軟にいたいですね。さっきも言ったように、現場ではいろいろなことが起こるから、なるべく決めてかからないようにしています。何かあった時にパッ! と変えられる頭でいたいんです。脚本どおりにやるのが映画じゃないというか、出来上がるまでわからないし、つまりは監督だけじゃなく、みんなで作るものだという意識でいるからなんです。それと、予想外のことが起こると、僕はうれしいと思うタチなんですよ(笑)。たとえば雨が降ったりすると、「これは室内で撮れってことかな」とか「そういえばちょっとこのシーン、変えたかったかも」みたいに思える(笑)。わりと前向きなところがあるんですね。実際、そっちのほうがよかったなとなることも少なくないんです。
過激なシーンもありますが、PG12にしてあるので、ファミリー、カップルでわいわい楽しめる作品になったと思っています。僕みたいにひとりで映画を観ている人も楽しいし、いろいろな人が楽しめるといいなと。映画本来の楽しさみたいなものがあると思います。
実は今回、昔あった東映プログラムピクチャーみたいなものを強く意識したんです。なので、劇場のシーンでは『仁義なき戦い』をかけたり、尺も絶対100分を超えないようにしようとも決めていました。
最近は映画館でこういう映画を観る人もなかなかないですし、かかるものもなくなってきちゃった中で、今回のチャンスをいただいた。そもそも“カバンに札束”みたいなビジュアルも、現代ではなかなかないじゃないですか。1億円を巡るコンゲームのような娯楽作を、今どきやれるんだという気持ちがあったので、楽しい映画にしたかった。テレビにはない刺激をイオンシネマでぜひ味わってください(笑)。

BIOGRAPHY
1975年9月2日生まれ、東京都出身。武蔵野美術大学在学中から8mm映画を制作。卒業後、フリーランスの助監督としてピンク映画やVシネマなどで経験を積み、2003年『味見したい人妻たち』で監督デビュー。以降、ピンク映画、Vシネマ、劇場映画など100本を超える作品を手がける。2020年公開『アルプススタンドのはしの方』が高い評価を受け、第42回ヨコハマ映画祭、第30回日本映画プロフェッショナル大賞で監督賞を受賞。そのほか『性の劇薬』『愛なのに』『女子高生に殺されたい』『ビリーバーズ』『夜、鳥たちが啼く』『恋のいばら』『悪い夏』『名無し』など。